北米版『ドラゴンボールZ』と『ドラゴンボール改』の翻訳を比べてみた 北米のアニメ翻訳事情②

前回、アニメ『ドラゴンボールZ』の翻訳がいかにひどかったかを紹介しました。(詳細はこちら

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あれが翻訳されたのが1999年でした。それから10年。2009年には、『Z』から冗長な部分をカットし、より鳥山原作に近づけた『ドラゴンボール改』が日本で放送され、アメリカでもすぐに放送が開始されました。

この10年間で、どれだけ翻訳がマシになったのかを見てみるため、『Z』と『改』の全く同じシーンを紹介してみましょう。翻訳作業に当たったのは同じ Funimation という会社ですので、比較対象としては最適だと思います。


↑『Z』と『改』の北米版。北米では『改』は『Z改』というタイトル

まず、『Z』の英語版は、こんなにデタラメなセリフに変更されていたということをご確認ください。


日本語
ベジータ:
「喜ぶがいい。
貴様のような下級戦士が、超エリートに遊んでもらえるんだからな。
サイヤ人は生まれてすぐ戦士の素質を検査される。
その時の数値が低いクズ野郎が
貴様のように大した敵のいない星へ送り込まれるのだ。
要するに貴様は落ちこぼれだ!」
英語(『Z』)
Vegeta:
Kakarot, I have a proposition for you.
 カカロット、貴様に一つ提案がある。
I'm only going to say this once, so listen carefully.
 いいか、一度しか言わないからよく聞けよ。
I, Vegeta, Prince of all Saiyans, would like to offer you, Kakarot, the opportunity to stand beside me in this conquest.
 このサイヤ人の王子であるベジータ様が、カカロット、貴様にオレの世界征服の片腕として働くチャンスをやろう。
With Nappa gone, I could use a good man.
 ナッパがいない今、有能な奴がいれば使ってやってもいいと思っている。
Think about it.
 どうだ。
We would rule the planets.
 オレたちで宇宙を支配するのだ。
You could have anything you desired.
 望むものは全て手に入れることが出来る。
There's no one in the universe that could touch us.
 この宇宙で誰一人としてオレたちに逆らう奴はいなくなる。
Nothing would be out of your grasp.
 全てがお前のものになるんだぞ。
Well, what do you say Kakarot?
 さあ、どうだ、カカロットよ。


日本語
悟空:
「そのおかげでオラはこの地球に来られたんだ、感謝しなきゃな。
それによ、落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ?」
英語(『Z』)
Goku:
I have everything I could ever want right here on Earth.
 オラが欲しいものなら、全部この地球にあるんだ。
So, I'll have to say, no thanks.
 だから、せっかくだけど断るぜ。
Besides, I've seen how you treat your partners, not much job security.
 それによ、おめぇが仲間をどう扱うか見たばっかりだからな。
 あんま安定したいい職場じゃなさそうだ。


日本語
ベジータ:
「ふっふっふっふ! 面白い冗談だ。 
では努力だけではどうやっても越えられぬ壁を見せてやろう」
英語(『Z』)
Vegeta:
Ha ha ha. Alright then, so be it. You had your chance.
 ハハハ。 いいだろう。好きにしろ。 後悔するなよ。

全く日本語と異なっていますね。是非注意していただきたいのは、ここだけがアメリカ人の嗜好に合うように変更されたのではなく、全編この調子であるという点です。当時は「翻訳」ではなく、新たに脚本を作る作業がなされていたわけです。

『Z』のスタッフクレジットを見ると、Translator(翻訳家)1人の他にWriter(脚本家)が3人、さらにScript Supervisors(脚本監修)が2人もいます。普通にやれば、翻訳家と脚本家の2人だけで十分でしょうから、おそらく、日本語を「勉強したことがある」程度の人が大体のストーリーだけ把握し、writer に伝え、writer が脚本を一から作るという作業をやっていたのではないか、と私は推測しています。




↑妙に多い脚本スタッフ。なぜ翻訳ものでこんなに脚本スタッフが必要なんだ…

この吹き替え版を作った FUNimation って、日系アメリカ人社長が、日本のアニメを翻訳する目的で作った会社なのに、翻訳がこのレベルだったのですから、どれだけアメリカにおける「翻訳」の意識と、日本のアニメに対する理解度、尊重度が低かったかがわかります。

では、その10年後、2009年に放送された『改』はどうだったのでしょうか。全く同じ場面を検証してみましょう。


日本語
ベジータ:
「喜ぶがいい。
貴様のような下級戦士が、超エリートに遊んでもらえるんだからな。
サイヤ人は生まれてすぐ戦士の素質を検査される。
その時の数値が低いクズ野郎が
貴様のように大した敵のいない星へ送り込まれるのだ。
要するに貴様は落ちこぼれだ!」
英語(『改』)
Vegeta:
You should feel lucky.
 喜ぶがいい。
Not every low class warrior gets the chance to spar with a super elite like myself.
 下級戦士が、このオレのような超エリートと戦えるなどなかなかないことだぞ。
Not long after Saiyans are born, their skills as a soldier are tested. 
 サイヤ人は生まれてすぐに、戦士としての力を検査される。
The scum whose scores are ranked the lowest are sent to the outer worlds where the opponents are weak.
 そこで最下級にランクされたクズが、敵が弱い辺境の地に送られるのだ。
Much like you were, Kakarot.
 カカロット、貴様のようにな。
In other words, you were cast out like a dog.
 つまり、貴様は捨て犬同然と言うわけだ。


日本語
悟空:
「そのおかげでオラはこの地球に来られたんだ、感謝しなきゃな。
それによ、落ちこぼれだって必死で努力すりゃエリートを超えることがあるかもよ?」
英語(『改』)
Goku:
Yes, and as a result I was lucky enough to come here to earth.
 ああ、そのおかげでオラは地球に来ることができたんだ。
I'm grateful for that.
 感謝してるぜ。
Besides, maybe even a lower-class outcast can surpass an elite if he puts his mind to it.
 それによ、下級の捨て犬だって、本気になればエリートを超えることだってあるかもよ。


日本語
ベジータ:
「ふっふっふっふ! 面白い冗談だ。 
では努力だけではどうやっても越えられぬ壁を見せてやろう」
英語(『改』)
Vegeta:
That's a nice attempt at a joke.
 面白い冗談だ。
Now let me show you a wall you will never have the ability to scale through effort alone.
 では、努力だけではどうやっても越えられぬ壁を見せてやろう。

どうでしょうか。10年前と違い、ちゃんと「翻訳」していますね。ちなみにスタッフクレジットの脚本にはADR Head WriterとADR Script Writerの2人しかいません(ADRとはAdditional dialogue recordingの略で、アフレコのこと)。Translatorという項目がないのが気になりますが、やはり翻訳がしっかりしていれば、『Z』の時みたいに脚本を自分たちで作る必要がないので少ない人数ですむんですね。


↑『改』のスタッフクレジット
脚本関係者は2名

『Z』も『改』も、両方同じ会社が行った吹き替えですから、この10年でどれだけアメリカ人の日本のアニメに対する意識が垣間見えると思います。

『ジャパナメリカ』(ローランド・ケルツ、ランダムハウス講談社、2007年)にはこうあります。

「変わったのはアメリカ。日本ではない」と片岡義朗(※1)は言う。 (略) 日本の会社はもうポップカルチャー商品をローカライズしなくとも(少なくとも以前ほどローカライズしなくとも)アメリカの視聴者の人気を獲得できるようになった。現在、英語に翻訳されているマンガには、一部日本語のフレーズや自体がそのまま残されている。アメリカの読者には解読不可能だが、それでもクールだと見なされている。
 「『ガッチャマン/バトル・オブ・ザ・プラネット』はアメリカに渡ったとき、アメリカの嗜好に合うように編集された(※2)。不思議なのは、今ではアメリカの思考が日本的に変化したことだ」と片岡は言う。(40-41頁)

(太字は引用者。
(※1)…マーベラスエンターテイメントの取締役(音楽映像グループ・エグゼクティブ・プロデューサー)
(※2)…実際はアメリカの思考に合うように編集されただけではなく、同書24ページによれば、「スタッフは、誰一人として日本語を読むことも理解することもできなかった」ため「映像だけを見てストーリーを解釈し」「登場人物の口の動きに合う英単語を選ぶ」という作業をしたらしい。酷すぎる…)

『Z』を見ていたアメリカ人は、『改』を見た時、あまりの違いに驚いたことでしょう。「日本オリジナルに出来るだけ近く」という意識は、確実にアメリカ人に広がっているのです。

日本のアニメのさらなる理解が、世界中に広がることを祈念しつつ、ではまた!

==補足==

なんか『DBZ』の翻訳のこと調べていたら、ある情報ソースにぶち当たりました(これ)。それによると、『DBZ』を翻訳したFUNimationの社長、日本生まれでアメリカ育ちのフクナガ・ゲン氏の叔父が東映動画で働いていたらしく、FUNimationはコネで『DB』と『DBZ』の翻訳権を手に入れたそうです。しかも、これがFUNimation最初の仕事。いきなり初仕事から『ドラゴンボール』かよ! コネの力すげえ!

当然作ったばっかりなんで、まともな翻訳家を雇う金なんかない。また、東映側にしたって、制作している作品を数十カ国に輸出してるわけだから、一々全部自分たちで翻訳するのも無理。で、結局いい加減な翻訳家によるいい加減な翻訳が出来上がったと。

この『DBZ』の翻訳がメチャクチャなのはどうも日本側もかなり悪いようで、東映だかフジテレビだかわかりませんが、日本側が英訳台本を先に作って、それをFUNimation側に渡したらしく、その日本が作った翻訳がそもそもイカレていたみたいです。かなり大雑把で、まあ酷いもんだったみたいですね(もしかしたら、All your base are belong to us.みたいなレベルの英文を書いたんじゃないだろうか?)。それを元に、アメリカ人が数人がかりで脚本書くもんだから、もうそれはそれはイカレたものになるわけですよ。

一度、マンガやアニメの英訳やってみたいな~。ファンがやるほうが、きっといいものできると思うんだよね。出版社さん、アニメ会社さん、いつでも格安で英訳しますよ~(笑)。

ではまた!


 
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是非ご自分の目と耳で、どれだけ翻訳がデタラメか確認してみて欲しいです。
上で紹介したのが氷山の一角だとわかると思います。

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